行政法における処分要件の解釈・適用入門―「司法試験予備試験 平成24年 行政法」を題材に

〔設問〕

 Xが本件処分の取消訴訟において主張すべき違法事由について論じなさい。なお、手続法上の違法事由については検討しなくてよい。

 

 「よし、いつもの裁量権行使の逸脱・濫用の問題だな!とりあえず、条文の文言が抽象的・不確定概念っぽく規定されているような気がするし、行政庁の判断なんだから専門的・政策的な判断が必要で、要件裁量ありだ!規範は、社会観念審査か判断過程審査でよかったよな。今回は・・・・・・。うむ、いっちょあがりぃ!」

 

 「認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを。」

出典:『機動戦士ガンダム』第1話「ガンダム大地に立つ!!」ガンダムチャンネル)

 

 行政法を学び、法科大学院入試や司法試験予備試験、司法試験の過去問をいざ起案する際に、上記のような思考に基づいて実体法上の違法事由の主張を論じている方は、きっと少なくないのではないかと思います。

 

 さて、ここで、行政法を学ぶより前に既に学んだであろう科目、例えば、民法や刑法で学んだことを思い出してみてください。以下のように争点(論点)を学び、知識を整理しているかと思います。

 

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ex.1 民法:96条3項の「第三者」の意義

(要件)

 「第三者」(民法96条3項)

(規範)

 96条3項の「第三者とは、当事者及び包括承継人以外の者で、詐欺による意思表示によって生じた法律関係について、取消前に新たな法律上の利害関係を有するに至った者をいう。

(理由)

 取消しの意思表示の遡及的無効による不測の不利益を受ける者を保護する必要がある。

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ex.2 刑法:横領罪における「横領」行為の意義

(要件)

 「横領」行為(刑法252条1項、253条)

(規範)

 「横領」行為とは、委託の趣旨に反して行為者の権利の範囲を逸脱した行為であり、かつ、不法領得の意思を発現する行為をいう。

(理由

 横領罪の保護法益は、所有権委託関係であり、これらの法益侵害の現実的危険性を有する行為が「横領」行為である。

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 このように、民法や刑法では、法律学習のいわば習慣として、検討対象の要件(構成要件)が規定されている条文の文言を特定し、規範とその理由付けを示すことで論証を展開し、その上で、これに対応する当てはめを行い、結論を示す、という思考プロセスないし起案の型が確立していると思います。

 

 この思考プロセスないし起案の型は、行政法でも同じであり、裁量の逸脱・濫用の問題にいきなり飛びつくのではなく、行政庁が、個別法に規定された処分要件をどのように解釈・適用しているのかを考えてみることが肝要です。もちろん、設問や問題文で、裁量権の行使の問題のみを論じるよう指示や誘導があれば別ですが、そうでない限りは、まずは、個別法の解釈・適用の可能性を考えてみて、その上で必要に応じて裁量権の逸脱・濫用について(も)考えてみる、という思考プロセスを確立させておくとよいです。

 

 いわゆる「論証パターン」化するのが難しい分野ですので、そのような場合には、思考プロセスないし起案の型をまとめておくのが有益です。処分要件の解釈・適用についてのそれをまとめてみると、以下のような一例となります。

 

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【まとめ】 処分要件の解釈・適用の思考プロセス

 処分要件の解釈

 ㋐ 解釈の対象となる処分の根拠法規の文言(処分要件「X」)を特定する。

 ㋑ 処分の根拠法規の文言が、通常日本語としてどのような意味であるかを確認する。

 ㋒ 処分の根拠法規の制度趣旨を考える。

  ・ 個々の処分の根拠法規の制度趣旨を考える。

  ・ 当該個別法の目的規定や関連規定を解釈の参考にする。

  ・ 個々の処分の根拠法規が「あるとき、ないとき」にどのようなメリット・デメリットなどがあるかを社会常識や目的規定・関連規定を参考に制度趣旨を解釈する。

 ㋓ 事案の特殊性を考慮して解釈を修正するかを考える。

 ㋔ 以上の解釈の結果、処分要件「X」の定義・判断枠組みを示す。

 事実の評価・処分要件の適用

⑶ 結論

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※ なお、「あるとき、ないとき」のイメージは、関西にお住まいの方であれば、こんなイメージですね(冗談&雑談です。)。

 

 このまとめを見て、「なるほど、具体的なイメージがドバドバ湧いてくるぅー!」という方は、あまりいらっしゃらないと思いますので、上記のまとめで整理した思考プロセスないし起案の型を実際の過去問(司法試験予備試験 平成24年 行政法)を題材に一緒にトレーニングしてみましょう!

 

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<具体的な思考プロセスの例>―「司法試験予備試験 平成24年 行政法」を題材に

 処分要件の解釈

㋐ 解釈の対象となる処分の根拠法規の文言(処分要件「X」)を特定する。 

→ 「指定工事店が条例・・・・・・の規定に違反したとき」(規則11条)

㋑ 処分の根拠法規の文言が、通常日本語としてどのような意味であるかを確認する。

→ 指定工事店の従業員がその業務中に条例の規定に違反したことを意味する。

㋒ 処分の根拠法規の制度趣旨を考える。

→ 本件規則11条の趣旨は、「市長が排水設備の工事に関し技能を有する者として指定した者」を予め「指定工事店」(本件条例11条1項本文)とし、その店舗が適切な下水道の整備を行うことによって、公共用水域の水質の保全に資することにある。

㋓ 事案の特殊性を考慮して解釈を修正するかを考える。

→ 排水設備の工事は、住民の日常生活に必須な公共用水域の水質の保全に関わるものであるため、指定工事店の従業員が業務として行う場合はもちろん、これに準ずる場合についても規制対象とすべきである。

 一方で、本件規則11条の要件を充足するか否かは、主観的に判断するのではなく、客観的に判断すべきである。

㋔ 以上の解釈の結果、処分要件「X」の定義・判断枠組みを示す。

 規則11条の「指定工事店が条例・・・・・・の規定に違反したとき」に当たるか否かは、指定工事店に属する従業員が、その業務中又はこれに準ずる状況下で行われた違反行為か否かを基準に客観的に判断すべきである。

 事実の評価・処分要件の適用

・ Cは、休日である2010年8月29日に、乙市に知らせることなく、本件工事を施工しており、本件条例9条に違反するが、業務中に行われたものではない。

・ Cは、Aの従業員であるが、役員ではなく、会社を通さずに本件工事を行っているため、業務に準ずる状況下で行われたものでもない。

・ したがって、Cの違反行為を「指定工事店」Aの違反行為と判断することはできない。

 結論

 よって、本件規則11条の要件を充足しない本件処分は、違法である。

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 いかがでしょうか。やはり、思考プロセスないし起案の型を抽象化してまとめて直前に確認できるツールも必須ですが、このように具体例を通じて実際の試験で使えるようにトレーニングをしておくことも肝要です。

 

 なお、より進んで処分要件の解釈・適用について学びたい、という方は、興津先生のテキストがオススメです。この点について書かれているテキストが中々ないのが受験生の悩みどころですが、こちらのテキストにはとても詳しく書かれております。是非、図書館やローライブラリーなどで探して読んでみてください!

 

興津征雄『行政法行政法総論』(新世社、2023年)140頁-147頁、384-402頁

 それでは、最後におまけで、上記の具体的な思考プロセスの例を踏まえて、参考起案例を作成し、掲載致します。鵜呑みにし過ぎず、能動的・批判的に参考にしてみてください。

 

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【参考起案例】「司法試験予備試験 平成24年 行政法」:本件規則11条の要件不充足の主張部分のみ

[主張の要旨] 

 本件工事は、Cが休日に会社を通さずに独断で行ったものであり、「指定工事店」Aが市長の確認を受けずに工事に着手したものではないため、本件規則11条の処分要件を充足せず、違法であると主張すべきである。

[判断枠組み]

 本件規則は、本件条例11条2項による委任を受けた法規命令である(地自法15条1項、本件規則1条)。本件規則11条の趣旨は、「市長が排水設備の工事に関し技能を有する者として指定した者」を予め「指定工事店」(本件条例11条1項本文)とし、その店舗が適切な下水道の整備を行うことによって、公共用水域の水質の保全に資することにある。そこで、「指定工事店が条例・・・・・・の規定に違反したとき」に当たるか否かは、指定工事店に属する従業員が、その業務中又はこれに準ずる状況下で行われた違反行為か否かを基準に客観的に判断すべきである。

[個別具体的検討]

 Cは、休日である2010年8月29日に、乙市に知らせることなく、本件工事を施工しており、本件条例9条に違反するが、業務中に行われたものではない。また、Cは、Aの従業員であるが、役員ではなく、会社を通さずに本件工事を行っているため、業務に準ずる状況下で行われたものでもない。それゆえ、Cの違反行為を「指定工事店」Aの違反行為と判断することはできない。

[結論]

 よって、本件規則11条の要件を充足しない本件処分は、違法である。

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 本コラムが、受験生の皆様のお役に立てれば幸いです!